複素数
我々は既に「実数」(実数体 $\mathbf{R}$ )というものを知っているので,
さらに「複素数」なるものを定義したい.
そこで,
$i^2=-1$ を満たす $i$ を虚数単位と呼び,実数 $x,\ y$ によって
$x+yi$
と表されるものを複素数と呼ぶ...ということで済ませたいところだが,今のところ実数しか知らない建前の我々としては
「$i^2=-1$ を満たす $i$ 」と唐突に言われても,それは何者なのか,どこにそんなものが存在するのか,と困惑する(振りをする)しかない.
ここでは飽くまでも建前を守って,次のような定義を採用しよう:
複素数体 $\mathbf{C}$ とは
二つの実数の組 $(x,y)$ からなる集合であって,次の演算が定義されているものをいう:
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和:$(x,y)+(x',y')=(x+x',y+y')$
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差:$(x,y)-(x',y')=(x-x',y-y')$
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積:$(x,y)(x',y')=(xx'-yy',xy'+x'y)$
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商:$\dfrac{(x,y)}{(x',y')}=\Big(\dfrac{xx'+yy'}{{x'}^2+{y'}^2},\dfrac{-xy'+x'y}{{x'}^2+{y'}^2}\Big)$
$\mathbf{C}$ の各元を
複素数と呼ぶ.$(x,y)$ を複素数とするとき,$x$ をその
実部,$y$ をその
虚部と呼び,それぞれ $\mathrm{Re}(x,y)=x$,$\mathrm{Im}(x,y)=y$ と表す.
「複素数体」と呼ぶからには,$\mathbf{C}$ が上記の演算に関して体となることを示す必要がある.複素数の演算に習熟していればほとんど明らかに思えることであろうが,本講座における我々の立場上「明らか」で済ますわけにはいくまい.
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(和に関する結合法則)
$\{(x,y)+(x',y')\}+(x'',y'')=(x+x',y+y')+(x'',y'')\\
\hspace{118pt}=(x+x'+x'',y+y'+y'')$
$(x,y)+\{(x',y')+(x'',y'')\}=(x,y)+(x'+x'',y'+y'')\\
\hspace{118pt}=(x+x'+x'',y+y'+y'')$
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(和に関する交換法則)
$(x,y)+(x',y')=(x+x',y+y')$
$(x',y')+(x,y)=(x'+x,y'+y)$
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(加法単位元の存在)
$(x,y)+(0,0)=(0,0)+(x,y)=(x,y)$
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(加法逆元の存在)
$(x,y)+(-x,-y)=(-x,-y)+(x,y)=(x-x,y-y)=(0,0)$
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(積に関する交換法則)
$(x,y)(x',y')=(xx'-yy',xy'+x'y)$
$(x',y')(x,y)=(x'x-y'y,x'y+xy')$
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(積に関する結合法則)
$\{(x,y)(x',y')\}(x'',y'')\\
\hspace{20pt}=(xx'-yy',xy'+x'y)(x'',y'')\\
\hspace{20pt}=((xx'-yy')x''-(xy'+x'y)y'',(xy'+x'y)x''+(xx'-yy')y'')\\
\hspace{20pt}=(xx'x''-x''yy'-xy'y''-x'yy'',xx''y'+x'x''y+xx'y''-yy'y'')$
$(x,y)\{(x',y')(x'',y'')\}\\
\hspace{20pt}=(x,y)(x'x''-y'y'',x'y''+x''y')\\
\hspace{20pt}=(x(x'x''-y'y'')-y(x'y''+x''y'),x(x'y''+x''y')+y(x'x''-y'y''))\\
\hspace{20pt}=(xx'x''-xy'y''-x'yy''-x''yy',xx'y''+xx''y'+x'x''y-yy'y'')$
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(乗法単位元の存在)
$(1,0)(x,y)=(1\cdot x-0\cdot y,1\cdot y+0\cdot x)=(x,y)$
$(x,y)(1,0)=(x\cdot1-y\cdot 0,y\cdot 1+x\cdot 0)=(x,y)$
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(乗法逆元の存在)
$(x,y)\neq (0,0)$ のとき
$(x,y)\Big(\dfrac{x}{x^2+y^2},\dfrac{-y}{x^2+y^2}\Big)\\
\hspace{40pt}=\Big(\dfrac{x^2}{x^2+y^2}-\dfrac{-y^2}{x^2+y^2},\dfrac{-xy}{x^2+y^2}+\dfrac{xy}{x^2+y^2}\Big)
=(1,0)$
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(分配法則)
$(x,y)(x'+x'',y'+y'')\\
\hspace{40pt}=(x(x'+x'')-y(y'+y''),x(y'+y'')+(x'+x'')y)\\
\hspace{40pt}=(xx'+xx''-yy'-yy'',xy'+xy''+x'y+x''y)\\
\hspace{40pt}=(xx'-yy',xy'+x'y)+(xx''-yy'',xy''+x''y)\\
\hspace{40pt}=(x,y)(x',y')+(x,y)(x'',y'')$
複素数を $\left(\begin{array}{cc}x&-y\\y&x\end{array}\right)$ という形の実 $2\times2$ 行列として定義する方法もある:
$\mathbf{C}\stackrel{\mathrm{def}}{=}\left\{\left.\,\left(\begin{array}{cc}x&-y\\y&x\end{array}\right)\,\right|\,x,y\in\mathbf{R}\,\right\}$
この形の行列は
$\left(\begin{array}{cc}x&-y\\y&x\end{array}\right)=\sqrt{x^2+y^2}\left(\begin{array}{cc}\frac{x}{\sqrt{x^2+y^2}}&-\frac{y}{\sqrt{x^2+y^2}}\\\frac{y}{\sqrt{x^2+y^2}}&\frac{x}{\sqrt{x^2+y^2}}\end{array}\right)$
と書き直すと明らかなように $xy$ 平面における回転と拡大を表しており,複素数の積も同じく複素平面上での回転と拡大を意味することを知っていれば極めて自然な発想と言える.
この場合,和,差,積は行列の和,差,積として,商は逆行列
$\left(\begin{array}{cc}x&-y\\y&x\end{array}\right)^{-1}
=\dfrac{1}{x^2+y^2}\left(\begin{array}{cc}x&y\\-y&x\end{array}\right)$
との積として定義すればよいので,積に関する交換法則
$\left(\begin{array}{cc}x&-y\\y&x\end{array}\right)\left(\begin{array}{cc}x'&-y'\\y'&x'\end{array}\right)
=\left(\begin{array}{cc}xx'-yy'&-xy'-x'y\\xy'+x'y&xx'-yy'\end{array}\right)$
$\left(\begin{array}{cc}x'&-y'\\y'&x'\end{array}\right)\left(\begin{array}{cc}x&-y\\y&x\end{array}\right)
=\left(\begin{array}{cc}xx'-yy'&-xy'-x'y\\xy'+x'y&xx'-yy'\end{array}\right)$
が成り立っていることを確かめれば,それ以外は行列の演算の一般的性質として済ませることができる.
もちろん,その一般的性質を示すことはそれなりの手間ではあるが.
虚部が $0$ である複素数 $(x,0)$ を実数 $x$ と同一視することにより,実数も複素数とみなす(つまり $\mathbf{R}\subset\mathbf{C}$ ).
虚部が $0$ でない複素数を
虚数と呼び,実部が $0$ である虚数を
純虚数と呼ぶ.
$(x,y)=(x,0)+(0,y)$ に注意して,$(x,0)$ のことを単に $x$ と書き,$(0,y)$ のことを $yi$ と書くことすると,複素数 $(x,y)$ はおなじみの
$x+yi$
という式で表される.
もちろん複素数 $x+yi$ についても
$(x+yi)(x+yi)=(x+yi)^2$
$(x+yi)(x+yi)(x+yi)=(x+yi)^3$
のように書く.積の定義により
$i^2=-1$
が成り立つから,
積については
$(x+yi)(x'+y'i)=xx'+xy'i+x'yi+yy'i^2=xx'-yy'+(xy'+x'y)i$
と,実数の多項式のつもりで展開し,$i^2$ を $-1$ に置き換えるという計算を行えばよく,商に関しても,$(x'+y'i)(x'-y'i)={x'}^2+{y'}^2$ に注意して
$\dfrac{x+yi}{x'+y'i}
=\dfrac{(x+yi)(x'-y'i)}{(x'+y'i)(x'-y'i)}
=\dfrac{xx'+yy'+(-xy'+x'y)i}{{x'}^2+{y'}^2}$
と,「分母の実数化」を行えばよいということになる.
複素共役と絶対値
複素数 $z=x+yi$ の
複素共役を
$\overline{z}\stackrel{\mathrm{def}}{=}x-yi$
絶対値を
$|z|\stackrel{\mathrm{def}}{=}\sqrt{x^2+y^2}$
により定義する.
$\overline{\overline{z}}=z$,$|-z|=|z|$,$\big|\overline{z}\big|=|z|$,$|z|^2=z\,\overline{z}$
などに注意.
複素平面 複素数は二つの実数の組であるから,自然に平面上の点として表すことができる.
すなわち,複素数 $z=x+yi$ の実部 $x$ を
実軸(横軸)に,虚部 $y$ を
虚軸(縦軸)に目盛ることで,
複素平面(座標平面) 上の点として表すのである.
この場合,複素共役 $\overline{z}$ は $z$ と実軸に関して対称な位置にあり,絶対値 $|z|$ は原点 $0$ からの距離を表している.
特に,二つの複素数 $z,w\in\mathbf{C}$ に対して,差の絶対値 $|z-w|$ は複素平面における二点間の距離を表す.すなわち,$\mathbf{R}$ と同様に $\mathbf{C}$ も距離空間とみなすことができ,ということは,「複素数列の極限」「$\mathbf{C}$ は距離空間として完備か?」などが検討されるべきこととなる.これらについては次講で調べることにしよう.