複素解析

第9講 Laurent展開と留数定理

Laurent展開 $\alpha\in\mathbf{C}$,$0 < R_1 < R_2$ とする.一価複素関数 $f$ が $\{\,z\ |\ R_1\le |z-\alpha| \le R_2\,\}$ を含む領域で正則ならば,$f$ はその内部 $\{\,z\ |\ R_1< |z-\alpha| < R_2\,\}$ において
$\displaystyle f(z)=\sum_{n=-\infty}^\infty a_n(z-\alpha)^n$
$\displaystyle a_n=\dfrac{1}{2\pi i}\oint_{|w-\alpha|=r}\dfrac{f(w)}{(w-\alpha)^{n+1}}dw$
と表わすことができる.ここで,$r$ は $R_1\le r\le R_2$ なる任意の実数である証明
負の冪で表される $\displaystyle \sum_{n=-\infty}^{-1} a_n(z-\alpha)^n$ の部分はこの展開の主要部と呼ばれる.
 $\alpha$ が特異点であるとき
$f(z)=\dfrac{a_{-m}}{(z-\alpha)^m}+\dfrac{a_{-m+1}}{(z-\alpha)^{m-1}}+$$\cdots+a_0+a_1(z-\alpha)+\cdots$
と,主要部が $m$ 個の項からなるならば,$\alpha$ は $m$ 位のであるという. 主要部が無限個の項となるならば $\alpha$ は真性特異点であるという. $\alpha$ が特異点であっても,Laurent展開が
$f(z)=a_0+a_1(z-\alpha)+\cdots$
と,主要部をもたない場合もあり,その場合は $f(\alpha)=a_0$ と新たに定義することにより特異性を解消できるので,$\alpha$ は除去可能な特異点と呼ばれる.
 $z=\alpha$ が $f$ の $m$ 位の極であるための必要十分条件は $\displaystyle \lim_{z\to \alpha}(z-\alpha)^mf(z)$ が $0$ 以外の有限の値となることである(極の定義から明らかであろう).このことを用いて,Laurent展開を実行しなくても,ある程度の予想のもとに特異点の種類が判定できることも多い.
留数定理  複素関数 $f$ をその特異点 $\alpha$ のまわりに
$\displaystyle f(z)=\sum_{n=-\infty}^\infty a_n(z-\alpha)^n$
とLaurent展開したときの $-1$ 次の項の係数 $a_{-1}$ を $f$ の $\alpha$ における留数と呼び
$\underset{z=\alpha}{\mathrm{Res}}f(z)$
と表わす. $a_{-1}$に特に着目する理由は,前節で述べたように,Laurent展開の各係数は
$\displaystyle a_n=\dfrac{1}{2\pi i}\oint_{|z-\alpha|=r}\dfrac{f(w)}{(w-\alpha)^{n+1}}dw$
と表され,特に
$\displaystyle a_{-1}=\dfrac{1}{2\pi i}\oint_{|z-\alpha|=r}f(w)dw$
と,$a_{-1}$ が $f$ の周回積分を与えているからである.
そこで,与えられた関数の留数をどのように計算するかが問題になるが,$\alpha$ が $m$位の極である場合は
$\displaystyle \underset{z=\alpha}{\mathrm{Res}}f(z)=\lim_{z\to\alpha}\dfrac{1}{(m-1)!}\dfrac{d^{m-1}}{dz^{m-1}}(z-\alpha)^mf(z)$
と計算することができる詳しく!
複素関数 $f$ が領域 $D$ において有限個の特異点をもつとき,$D$ に含まれる任意の閉曲線 $C$ に沿った周回積分は
  $\displaystyle \oint_Cf(z)dz=2\pi i\sum_{j=1}^N\underset{z=c_j}{\mathrm{Res}}f(z)$
と,$C$の内部に含まれる特異点 $c_1,c_2,\ldots,c_N$ における留数の和(の $2\pi i$ 倍)で与えられると主張するのが留数定理である証明