複素解析

第4講 複素関数の極限と連続性・微分可能性

複素関数の極限  複素関数の極限は実関数と同様に定義される.すなわち, 複素関数 $f(z)$ が,$z\to z_0$ のとき $\alpha\in\mathbf{C}$ に収束するとは,
$\forall\varepsilon>0,\ \exists\delta>0,\ 0 < |z-z_0|<\delta\Rightarrow|f(z)-\alpha|<\varepsilon$
が成り立つことをいい,$\displaystyle\lim_{z\to z_0}f(z)=\alpha$ と表す. また,このことは
$\displaystyle \lim_{z\to z_0}|f(z)-\alpha|=0$
が成り立つことだといってもよい. 二変数の実関数の場合と同様に.$z$が$z_0$に近づくときの「近づき方」は無数に考えられるが,どのような近づき方をしても$f(z)$がある複素数に近づいていくときに「 $\displaystyle \lim_{z\to\alpha}f(z)$が存在する」 と言えるのである.
 そこで,$z$ が $z_0$ にある条件を満たしながら近づくときは,その条件を「$z\to z_0$」の 下に記すことにする.例えば,
$\displaystyle \lim_{\substack{z\to 0\\ \mathrm{Re}z=0}}\dfrac{z}{\bar{z}}=\lim_{\substack{x+yi\to 0\\ x=0}}\dfrac{x+yi}{x-yi}=\lim_{y\to 0}\dfrac{yi}{-yi}=-1$
連続性・微分可能性  複素関数の連続性,微分可能性も実関数と同様に定義される. すなわち, 複素関数$f$が点 $z_0\in\mathbf{C}$ およびその近傍で定義されているとき, $f$ が $z_0$ で連続であるとは
$\displaystyle \lim_{z\to z_0}f(z)=f(z_0)$
が成り立つことをいい, $f$ が $z_0$ で微分可能であるとは,極限
$\displaystyle \lim_{\Delta z\to 0}\dfrac{f(z_0+\Delta{z})-f(z_0)}{\Delta{z}}$
が $\mathbf{C}$ の値として存在することをいう. その極限値はやはり $f$ の $z_0$ における微分係数と呼び,$f'(z_0)$,$\dfrac{df}{dz}(z_0)$ などと表す. 式の形上は実関数と全く同じ定義なので,基本的な計算規則等は実関数と同様に成り立つ.例えば,冪関数 $z^n$ $(n\in\mathbf{Z})$ は $\mathbf{C}$ ($n < 0$ のときは $\mathbf{C}\backslash\{0\}$ )のすべての点で微分可能で
$\dfrac{d}{dz}z^n=nz^{n-1}$
が成り立つ(証明は練習問題とする).このように,複素関数が連続あるいは微分可能であれば実関数と同様に計算を行えばよいので, 当面の問題は「どのような関数がどこで連続なのか,あるいは微分可能なのか」ということになる.
Cauchy-Riemannの関係式 次の事実は微分可能性の判定において特に有用である.
 複素関数 $f(x+yi)=u(x,y)+v(x,y)i$ が点 $x_0+y_0i\in\mathbf{C}$ で微分可能ならば, その実部 $u(x,y)$,虚部 $v(x,y)$ について次のCauchy-Riemannの関係式が成り立つ:
$\left\{\begin{array}{l} \dfrac{\partial u}{\partial x}(x_0,y_0)=\dfrac{\partial v}{\partial y}(x_0,y_0)\\[2mm] \dfrac{\partial u}{\partial y}(x_0,y_0)=-\dfrac{\partial v}{\partial x}(x_0,y_0)\end{array}\right.$

 逆に,関数 $u$,$v$ が点 $(x_0,y_0)\in\mathbf{R}^2$ のある近傍で $C^1$ 級であってさらに上の関係式を満たすならば,$f$ は点 $x_0+y_0i\in\mathbf{C}$ で微分可能である証明pdf
 このことを利用すると,例えば指数関数 $e^z$ が $\mathbf{C}$ のすべての点において微分可能であり
$\dfrac{d}{dz}e^z=e^z$
が成り立つことが確かめられる詳しく! 前講で見た三角関数,双曲線関数は指数関数を用いて定義されていた. 従って, これらの関数もその定義域のすべての点で微分可能であって
$\dfrac{d}{dz}\cos{z}=-\sin{z}$, $\dfrac{d}{dz}\sin{z}=\cos{z}$, $\dfrac{d}{dz}\tan{z}=\dfrac{1}{\cos^2{z}}$ 
$\dfrac{d}{dz}\cosh{z}=\sinh{z}$, $\dfrac{d}{dz}\sinh{z}=\cosh{z}$, $\dfrac{d}{dz}\tanh{z}=\dfrac{1}{\cosh^2{z}}$ 
が成り立つことも容易にわかる.