ここでいう「開区間」には $(0,1)$ のような有界なものだけでなく $(1,\infty)$,$\mathbf{R}=(-\infty,\infty)$ などの非有界なものも含まれるが
$(-\infty,0)\cup(0,\infty)$
のような連結でない(複数の区間に分かれている)ものは含まれないことに注意しよう.
例として初期値問題
$(*)\ \left\{\begin{array}{l}y'=\dfrac{1}{x}\\ y(-1)=1\end{array}\right.$
を考える.一般解は
$y=\log|x|+C$
であるから,初期条件により $1=\log|-1|+C$ から $C=1$ と決まり,この初期値問題の解は,定義域も含め
$y=\log|x|+1,\qquad x\in (-\infty,0)\cup(0,\infty)$
$\mathrm{(1)}$
と決定されたということでよさそうである,
しかし,ここで意地悪く
$y=\left\{\begin{array}{ll}\log{x}&\mbox{if $x >0 $}\\\log{(-x)}+1&\mbox{if $x < 0$}\end{array}\right.$
という関数を考えるとどうか.これも確かに $(*)$ の微分方程式の解であるし,しかも初期条件を満たしている.さらに言えば
$y=\left\{\begin{array}{ll}\log{x}+C&\mbox{if $x >0 $}\\\log{(-x)}+1&\mbox{if $x < 0$}\end{array}\right.$
という形の関数は $C$ がどんな実定数であっても $(*)$ を満たしていると言える.このように,初期条件 $y(-1)=1$ によって決定されるのは $(-\infty,0)$ の範囲に限定されるのであるから,ならばその範囲を定義域として,初期値問題 $(*)$ の解は
$y=\log{(-x)}+1,\qquad x\in (-\infty,0)$
$\mathrm{(1)'}$
とするべきであろう.$\mathrm{(1)}$ も微分方程式の(一般解の任意定数に値を代入して得られたので)特殊解には違いないが,
初期値問題の解としては本講座では定義域を限定した $\mathrm{(1)'}$ を採用する.
追記
$(*)$ のような場合の一般解は $C_1$,$C_2$ を任意定数として
$y=\left\{\begin{array}{ll}\log{x}+C_1&\mbox{if $x > 0$}\\\log{(-x)}+C_2&\mbox{if $x < 0$}\end{array}\right.$
と表すべきではないかと思うかも知れないが,そう表したとしても,初期条件 $y(-1)=1$ によって決定されるのは結局 $C_2$ だけなので,二つの任意定数を用いる利益は特にない.
実際のところ,乱暴に言ってしまえば「一般解をどのように表すべきか」などというのは些細な問題であって,最終的に正しい解が得られるのであれば,その前段階である一般解は好きなように表して構わない(二つの任意定数を用いるのが都合がよい場合はそうすればよい).本講座では飽くまでも
$n$ 階の常微分方程式の一般解は $n$ 個の任意定数を用いて表す
と規約するが,その理由は,そう決めておいたほうが面倒が少ないという程度のものでしかない.