線型代数

第25講 Jordan標準形

2次正方行列のJordan標準形 2次正方行列 $A$ の固有多項式が重根をもつ場合は $A$ は対角化不可能である
$A=P\left(\begin{array}{cc}\lambda&1\\0&\lambda\end{array}\right)P^{-1}$
という対角化に近い形に表すことは可能である. ここに現れた $\left(\begin{array}{cc}\lambda&1\\0&\lambda\end{array}\right)$ という形の行列は2次のJordan行列と呼ばれ,このような表現(あるいはJordan行列そのもの)をJordan標準形という. Jordan標準形をつくる手順は次の二通りが考えられるが,一般の場合にも適用できるのは第二の方法である:
3次正方行列のJordan標準形 3次正方行列 $A$ が対角化できないのは次の三つの場合である:
一般の正方行列のJordan標準形 2次,3次の場合と同様の操作を任意の正方行列について行うことができる:
 $A$ の固有値 $\lambda$ が固有多項式の重根として得られているとする.
$\mathrm{rank}(A-\lambda E)^{m+1}=\mathrm{rank}(A-\lambda E)^{m}$
となる最小の $m\in\mathbf{N}$ をとり
$K_1=\{\,\mathbf{v}\,|\,(A-\lambda E)\mathbf{v}=\mathbf{0}\,\}$
$K_2=\{\,\mathbf{v}\,|\,(A-\lambda E)^2\mathbf{v}=\mathbf{0}\,\}$
 $\vdots$
$K_{m}=\{\,\mathbf{v}\,|\,(A-\lambda E)^{m}\mathbf{v}=\mathbf{0}\,\}$
とおく.
$K_1\subsetneq K_2\subsetneq\cdots\subsetneq K_{m}$
に注意しよう命題25.2pdf. 鍵となるアイデアは,$\mathbf{v}\in K_{j+1}\backslash K_j$ ならば
$(A-\lambda E)\mathbf{v}\in K_{j}\backslash K_{j-1}$
$(A-\lambda E)^2\mathbf{v}\in K_{j-1}\backslash K_{j-2}$
 $\vdots$
$(A-\lambda E)^j\mathbf{v}\in W(\lambda)(=K_1)$
ということである.このことを念頭に ということを各固有値について繰り返して所望の正則行列をつくるために必要なベクトルを揃えていくのである. 一般的な議論は表記が煩雑になるので,まずは例の中でその様子を観察してみられたい.
正方行列の三角化 対角成分より下に位置する成分がすべて $0$ である正方行列,すなわち
$\left(\begin{array}{cccc}\alpha_1&&&\\&\alpha_2&\quad \huge{*}&\\&&\ddots&\\&&&\alpha_n\end{array}\right)$
という形の行列を上三角行列という 例えば? 任意の $n$ 次正方行列 $A$ は適当な上三角行列 $T$ および $\mathbf{C}^n$ の正規直交基底 $\{\mathbf{v}_1,\mathbf{v}_2,\ldots,\mathbf{v}_n\}$ により
$A=VTV^{-1}$, $V=(\ \mathbf{v}_1\ \mathbf{v}_2\ \cdots\ \mathbf{v}_n\ )$
と表すことができる.
正規直交基底による三角化を実行するには,まずJordan標準形
$A=PJP^{-1}$, $P=(\ \mathbf{p}_1\ \mathbf{p}_2\ \cdots\ \mathbf{p}_n\ )$
をつくり,$\{\mathbf{p}_1,\mathbf{p}_2,\ldots,\mathbf{p}_n\}$ をSchmidtの方法で正規直交化して $\{\mathbf{v}_1,\mathbf{v}_2,\ldots,\mathbf{v}_n\}$ としたとき
$(\ \mathbf{v}_1\ \mathbf{v}_2\ \cdots\ \mathbf{v}_n\ )=(\ \mathbf{p}_1\ \mathbf{p}_2\ \cdots\ \mathbf{p}_n\ )S$, $S$ は上三角行列
と表せることを利用するとよい.