複素解析

第7講 初等関数(2)

対数関数 複素関数としての対数関数
$\log_{\mathbf{C}}{z}=\log|z|+\arg{z}$,$z\in\mathbf{C}\backslash\{0\}$
により定義される. ここで,右辺の $\log|z|$ は実関数としての対数関数である. 偏角 $\arg{z}$ のとり方は一意でないので,これは一つの複素数に対して無数の値を返す多価関数である. すなわち,$z$ の偏角を指定しないと $\log_{\mathbf{C}}z$ の値は一つに定まらない. そこで,この講では $z\in\mathbf{C}$ を
$z=re^{i\theta}\quad r > 0,\ \theta\in\mathbf{R}$
と極形式で表したときは $z$ の偏角は $\theta$ に指定されているものとする. この約束の下で,複素対数関数は
$\log_{\mathbf{C}}{re^{i\theta}}=\log{r}+i\theta$
と計算される.
冪関数 $z,\ \alpha\in\mathbf{C}$ とするとき,「$z$ の $\alpha$ 乗」は
$z^\alpha\stackrel{\mathrm{def}}{=}e^{\alpha\log_{\mathbf{C}}{z}} =\exp(\,\alpha\log_{\mathbf{C}}{z}\,)$
により定義される. 複素関数としての冪関数は,$\alpha\in\mathbf{C}$ を定数として, $z\in\mathbf{C}\backslash\{0\}$ に $z^\alpha$ を対応させる関数である.
 複素対数関数を用いて定義しているので,$\alpha \notin\mathbf{Z}$ のときはこれも多価関数となる. また,$\alpha\notin\mathbf{N}$ のとき $0^\alpha$ は通常定義されない.
 もう少し簡単に
$(re^{i\theta})^\alpha=r^{\alpha}e^{i\alpha\theta}$
と計算してもよいが,その際,正の実数 $r$ の偏角は $0$ として扱わなければならないことに注意しよう詳しく!
指数法則
$\begin{array}{l} z^{\alpha}z^{\beta}=z^{\alpha+\beta}\\[1mm] (z^{\alpha})^{\beta}=z^{\alpha\beta}\end{array} \quad(\alpha,\beta\in\mathbf{C})$ 
は $z$ の偏角を指定するごとに成り立つ.
対数関数・冪関数の微分 Cauchy-Riemannの関係式
$\left\{\begin{array}{l}u_x=v_y\\u_y=-v_x\end{array}\right.$
は,極座標表示 $x=r\cos\theta$,$y=r\sin\theta$ では
$\left\{\begin{array}{l}ru_r=v_\theta\\u_\theta=-rv_r\end{array}\right.$
と表される詳しく!  この極座標表示を利用することで,複素関数としての対数関数および冪関数は $\mathbf{C}\backslash\{0\}$ で正則で
$\dfrac{d}{dz}\log_{\mathbf{C}}z=\dfrac{1}{z}$ 
$\dfrac{d}{dz}z^\alpha=\alpha z^{\alpha-1}$
が成り立つことがわかる詳しく!
対数関数・冪関数の積分 前講で見たように,複素関数 $f$ がある領域 $D$ で正則な関数$F$によって
$f(z)=F'(z)\quad(z\in D)$
と表されるとき,$D$ 内で点 $a$ から点 $b$ に到る任意の曲線 $C$ に対して
$\displaystyle \int_Cf(z)dz=F(b)-F(a)$
が成り立つ. すなわち,この場合は積分の値は始点と終点における原始関数の値のみによって決まることになるが,その原始関数が上で見た対数関数や冪関数の場合は,始点と終点の偏角のとり方がまたしても問題になる.
分枝と分岐線・分岐点 複素関数としての対数関数および冪関数は多価関数であるが,定義域(偏角の範囲)を制限することにより一価関数と考えることができる. 多価関数は,そのような一価関数の集まりと見ることができるが,そのときの一つ一つの一価関数をその多価関数の分枝と呼び,各定義域の境界を分岐線,分岐線の端点を分岐点と呼ぶ.